COLUMN

コラム

猫と仕事して、廃校で合宿して、知識を通貨にするー

「尖った」コワーキングスペースが面白い

保護猫×コワーキング、廃校リノベ、知識交換制……。コンセプトで差別化するスペースのビジネスモデルから、これからの市場を読み解きます。

コワーキングスペースにリノベーションされたコワーキングスペースで仕事をするビジネスパーソン

コワーキングスペースの選択肢は、この数年で飛躍的に増えました。駅前には複数の施設が並び、利用者にとっては嬉しい状況です。一方で、「どこも似たり寄ったり」という声も聞こえてくるようになっています。

そうした中で注目したいのが、明確なコンセプトを軸に据えた「特化型」のコワーキングスペースです。保護猫と一緒に働ける場所、廃校をそのまま活用したコワーキング、知識を通貨として席を得られるスペース……。一見ユニークに見えるこれらの施設には、実は持続可能なビジネスモデルとしての合理性が備わっています。今回は、国内外の事例をビジネスの視点から読み解いていきます。

1. 保護猫×コワーキング ― 「社会的意義」が集客コストをゼロにする

猫サロン併設の猫カフェコワーキングで、猫に囲まれ仕事をする様子

少し個人的なことをお話しすると、私は猫が大好きです。でも家では飼えない事情があって、ついつい猫カフェに癒しを求めてしまう日があります。そんな時、「猫カフェ併設のコワーキングスペースがあれば、仕事もはかどるし癒しも得られて最高なのに」と思うのは、きっと私だけではないはずです。

実は、そのニーズに応えるスペースが、日本各地に実際に生まれています。

大阪・南森町「SCAT WORKS」― 保護活動とビジネスを両立させるモデル

大阪メトロ南森町駅から徒歩2分の場所にあるSCAT WORKSは、保護猫カフェとコワーキングスペースを融合させたシェアオフィスです。保護猫が暮らすこの施設では、シェアオフィス・猫カフェ・トリミングサロンを複合経営することで、収益を猫たちの医療費や飼育費に充てる仕組みを確立しています。「支援する」のではなく「利用することで自然と支援になる」という循環が、施設の根幹にあります。

鹿児島・指宿「coworking space necohara」― SNS発信で広告費ゼロの集客を実現

鹿児島県指宿市の農業姉妹さんが運営するcoworking space necoharaは、「猫に邪魔(ネコハラ)されながら作業する」というコンセプトがSNSで6万5,000件以上のいいねを集め、広告費をかけることなく全国から利用者が訪れるようになりました。利用料は1時間1000円と手頃ながら、強い動機を持った利用者がリピートするため、稼働の安定につながっています。

保護猫型のビジネスモデルが成立する理由

一般的な猫カフェは観光客やファミリーが中心で、滞在時間は1〜2時間程度です。一方でコワーキングと組み合わせた場合、リモートワーカーは4〜8時間滞在し、月額会員として継続利用するケースも多くなります。客単価と収益の安定性が大きく改善される構造です。

加えて、動物愛護に共感する企業からの法人スポンサー、猫グッズの物販、里親縁組イベントの収益なども副次的な収入源となります。そして何より、「猫が好きでたまらない」という強い動機を持つ利用者がSNSや口コミで自発的に集まってくるため、広告費がほぼ不要という点が、このビジネスモデル最大の強みといえます。

2. 廃校リノベーション型 ― 低コスト開業と公的支援を組み合わせた地方モデル

コワーキングスペースにリノベーションした廃校で、企業が開発会議合宿を行っている様子

毎年数百校が廃校となっている日本では、その活用方法が長年の課題でした。近年、コワーキングスペースやシェアオフィスとしての再活用事例が増加しており(文部科学省 廃校活用事例集)、地方の新たなビジネスモデルとして注目されています。

東京・世田谷「HOME/WORK VILLAGE」― 廃校が地域の複合拠点に

2004年に閉校した旧世田谷区立池尻中学校を活用したHOME/WORK VILLAGEは、2025年にコワーキングスペース・飲食・物販・配信スタジオ・ブックラウンジ・体育館などを備えた複合施設としてグランドオープンしました。小田急電鉄やフリー株式会社なども参画し、「暮らし(HOME)と仕事(WORK)」をテーマに、地域住民と働く人が混在する場づくりを実現しています。

福島・田村市「テラス石森」― 移住者の地域インフラとして機能

旧石森小学校を活用したテラス石森は、2018年に福島県初の複合型テレワークセンターとしてオープン。木目調にリノベーションされた元図書室のコワーキングスペースは30席を備え、近隣の郡山市から1時間かけて通う利用者がいるほど好評です。単なるコワーキングスペースにとどまらず、田村市への移住者が頼る「地域のインフラ」として機能しています。

廃校型のビジネスモデルが持続しやすい理由

廃校リノベ型の最大のアドバンテージは、初期投資の低さにあります。自治体から建物をほぼ無償で借り受けられるケースも多く、地方創生関連の補助金を活用することで、開業コストの大部分を公的資金でカバーできる場合があります。

また、個人のドロップイン利用だけに依存せず、「企業の開発合宿」「新入社員研修」「移住促進イベントの委託運営」といったBtoBの需要を組み合わせることで、安定した収益構造をつくっている点も特徴です。元教室を一社で貸し切る「合宿パッケージ」は、宿泊・食事・チームビルディングとセットで数十万〜数百万円規模の受注につながることもあります。

3. 海外の次世代事例 ― 「コミュニティの質」が競争優位になる

オランダ・アムステルダム「Meet Berlage」― 知識を通貨とするコワーキング

アムステルダム中心部の歴史的建造物・旧証券取引所内に位置するMeet Berlageは、国際的なミーティングネットワーク「Seats2meet」の一部として運営されています。「知識の共有こそが発展の鍵」というフィロソフィーのもと、スキルや知識の交換がコミュニティの核となっており、起業家やクリエイターが集まる独自の生態系を形成しています。

イギリス・ロンドン「Level39」― 入居資格そのものが価値になるFinTechコミュニティ

ロンドン・カナリーワーフに位置するLevel39は、180社以上のスタートアップや成長企業が集まるFinTech特化のコワーキングスペースです。入居審査を設けることでコミュニティの質を担保しており、「ここに拠点を置くこと」自体が、メガバンクや投資家との接点を意味します。「どこで働くか」が「誰と出会えるか」に直結するモデルです。

これらの海外事例が示しているのは、「そこに集まる人たちとどんな共通言語で話せるか」というコミュニティの質が、最大の競争優位性になるということです。特定の業種・スキル・価値観を持つ人が自然と集まる「磁場」を設計できたスペースが、単なる貸しスペース業を超えた存在へと進化していきます。

4. 特化型に共通する「強さ」の本質

ここまで紹介してきた特化型コワーキングスペースに共通しているのは、「集客コストが極めて低い」という点です。

「猫が好きでたまらない」「廃校の環境で合宿したい」「FinTechの中心にいたい」という強い動機を持つ利用者が、SNSや口コミを通じて自発的に集まってきます。大手チェーンが広告費をかけてアプローチする層に対して、特化型は「その場所でしか得られない体験」を磁力として、まったく異なるロジックで人を集めます。

さらに、リピート率の高さも大きな強みです。「より安い場所が出れば乗り換える」という層ではなく、「猫に会いにまた来る」「この仲間に会いにまた来る」という強いロイヤルティを持つ利用者が多いため、稼働の安定につながりやすい傾向があります。

おわりに ― 「何のためのスペースか」が問われる時代

コワーキングスペースの選択肢が増え、利便性や価格だけでの差別化が難しくなった今、「ここにしかない体験や価値」を設計できるかどうかが、スペース運営の核心になってきています。

保護猫との時間、廃校の空間が持つ独特の空気感、志を同じくする仲間との偶然の出会い。こうした「偶然の価値」を意図的に設計できるスペースが、単なる貸しデスク業を脱却し、コミュニティのプラットフォームへと進化していきます。

「机と椅子を並べて利用者が来るのを待つ」だけの時代は、終わりつつあります。 これからのコワーキングスペースに問われるのは、集まった人と人、あるいは人と価値をどのようにつなぐか。 「ここに来る人たちが、どんな気持ちでドアを開けるか」「利用した後、どんな気持ちで帰っていくか」――その体験を丁寧に反映した「場の設計力」こそが、口コミで広がり、愛され続けていくための鍵になるはずです。

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